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最高裁判所第二小法廷 昭和51年(オ)1174号 判決

上告人

東孝一

右訴訟代理人

桑名邦雄

外一名

被上告人

三浦徳寿

右訴訟代理人

佐藤六郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人桑名邦雄、同中村喜三郎の上告理由書記載の上告理由第一点及び第二点について

論旨は、所論の各書証の成立の真正についての被上告人の自白が裁判所を拘束するとの前提に立つて、右自白の撤回を許した原審の措置を非難するが、書証の成立の真正についての自白は裁判所を拘束するものではないと解するのが相当であるから、論旨は、右前提を欠き、判決に影響を及ぼさない点につき原判決を非難するに帰し、失当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第三点ないし第一一点及び上告状記載の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、上告理由第一、二点について裁判官吉田豊の意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官吉田豊の意見は、次のとおりである。

私は、上告理由第一、二点についてその論旨が採用ききないとする結論自体には反対でないが、その理由とするところは多数意見と異なる。すなわち、記録により明らかな本件訴訟の経過に照らすと、被上告人が所論の各書証(委任状)の成立を認めると陳述したのは、これら委任状の受任者名、委任事項、日付が被上告人以外の者によつて記入される以前の、右各欄が空白のままの委任状用紙に、被上告人が署名押印したことだけを認めた趣旨であり、被上告人が上告人の主張するような事項に関する代理権を玉川順吉に授与するにつき作成した文書として、その成立の真正を自白した趣旨ではないことが明らかであつて、原判決のいうように被上告人がいつたん右自白をしたのちこれを撤回した場合にあたるとはいえない。したがつて、論旨は、この点において前提を欠くことになり、失当であると考える。

(吉田豊 岡原昌男 大塚喜一郎 本林譲 栗本一夫)

上告代理人桑名邦雄、同中村喜三郎の 上告状記載の上告理由

第一点 原控訴判決は上告人東孝一の主張に添う多数の措信し得る証拠が存在するに係らずこれを全く無視し又は立証なしと称して以て上告人に不利なる控訴棄却の判決するに至つた理由不備極まる違法の判決である。

上告代理人桑名邦雄、同中村喜三郎の上告理由書記載の上告理由

第一点 原判決は判決理由に理由不備の違法が存在しておる。依つて破棄を免れないと確信する。

その詳細は次のとおりである。

一、原判決はその判決理由中におけるところの第二の久木留と玉川との間の金銭消費貸借及び抵当権設定契約の成否についての項に、

「甲第一六、第一八号証の各被控訴人は原審において甲第一六、第一八号証の各二の成立を認める旨述べている。しかしこの書証の成立の真否こそ本件の事実問題の核心をするものであり、被控訴人は当審における弁論の経過において右成立の真正性に対する自白を撤回したものと認められる。」

と認定しておる。

二、右に対する上告人の反駁論旨は左記である。

(一) 被控訴人(被上告人)は控訴審の弁論の経過中に於て甲第十六号の二(被控訴本人の自署捺印の委任状)及び甲第十八号証の二(被控訴本人の自署捺印の委任状)の真正性に対する自白を現実に撤回することを全然主張しておらないのみならず尚撒回の記載も全然ない。

要するに甲第十六号証の二と甲第十八号証の二の両委任状の成立を認めたことの自白を現実に撤回されたる確証が全然存在しておらないのである。

(二) よって右理由中の「被控訴人は当審における弁論の経過において右成立の真正性に対する自白の撤回したものと認められる」とは、被控訴人主張しておらない事実に対する判断である。

(三) 要するに原判決理由は当事者の主張しておらない事実に対する認定であつて法規論に反する誠に違法極まる認定理由である。依つて破棄を免れないのである。

第二点 原判決は判決理由に理由不備の違法が存在しておる。よつて原判決は破棄を免れないものである。

その詳細は次のとおりである。

一、原判決はその判決理由中の

第二の一 久木留と玉川との間の金銭消費貸借及び抵当権設定契約の成否についての項に、

「甲第一六、第一八号証の各二被控訴人は原審において甲第一六、第一八号証の各二の成立を認める旨述べている。しかしこの書類の成立の真否こそ本件の事実問題の核心をなすものであり、被控訴人は当審における弁論の経過において右成立の真正性に対する自白を撤回したものと認められる。しかして訴訟物たる権利または法律関係の存否を直接に根拠付けるいわゆる主要事実に対する自白と異なり書証の成立の真正性に対する自白のごときは当事者が自由にこれを撤回できると解するのを相当とするから被控訴人の自白の撤回も許容されなされなければならない。」

と判定しておる。

二、右に対する上告人の反駁論旨は左記である。

(一) 右判決理由は「訴訟物たる権利または法律関係の存否に直接に根拠付けるいわゆる主要事実に対する自白と異なり書証の成立の真正性に対する自白は当事者が自由にこれを撤回できるが訴訟物たる権利または法律関係の存否に直接に根拠付けるいわゆる主要事実に対する自白の書証の成立の真正性に対する自白は当事者が自由にこれを撤回できないものと解されるとの判明されるのである。

(二) 而して甲第一六号証の二(被控訴本人の署名捺印の委任状)と甲第一八号証の二(被控訴本人の署名捺印の委任状)は被控訴人が第一審に於て成立を認めてる旨と述べていると認定しておる。

(三) 尚この甲第一六号証の二と甲第一八号証の二の書類の成立の真否こそ本件事実問題即ち久木留と玉川との間の金銭消費貸借及び抵当権設定契約の成否についての核心をなすものであると判定しておるのである。

(四) 仍て右甲第一六号証の二(被控訴本人の署名捺印の委任状)甲第一八号証の二(被控訴本人の署名捺印の委任状)の両書類は訴訟物たる権利または法律関係の存否に直接に根拠付ける核心たる主要事実に対する自白たることが明瞭である。

(五) されば甲十六号証の二並に甲第十八号証の二の両書類が成立を認めたる上に久木留と玉川との間の金銭消費貸借及び抵当権設定契約の成否についての事実問題の核心をなすものと判定し、即ち本件訴訟物たる権利または法律関係の存否を直接に根拠付ける主要事実に対する自白であることを認定しておるに係らず、次には前掲認定に反して右書証の成立の自白を撤回し得るものと認定したのである。

よつて前掲判定と後掲判定とは明らかに相矛盾すること誠に明瞭である。

仮りに然らずとしても判決理由説示に於て前後撞著の誠に不瞭極まる理由不備の違法なる判決たること明らかである。

(六) 要するに控訴判決は措信し得ず理由不備極まる違法の判決であつて破棄を要するものである。

第三点〜第十一点〈省略〉

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